【報告】「女性と防災」テーマ館主催シンポジウム④
「復興に向けて動く 企業の女性たち」
4日目の3月17日午前に行われたのは、「復興に向けて動く 企業の女性たち」。東日本大震災後、地域の復興に大きな役割を果たしてきた企業の女性たちに焦点を当て、彼女たちが非常時に力を発揮できた背景や、女性の活躍推進が企業活動そのものに与える影響について、具体的な事例を交えながら議論を深めました。
講話・コメンテーター
麓 幸子(日経BPヒット総合研究所長・執行役員)
コーディネーター
長谷部 牧(KHB東日本放送 総務局次長兼CSR広報部長)
パネリスト
松田 佳重子(資生堂販売株式会社 中四国支社 美容統括部長)
嘉藤 明美(株式会社鐘崎 代表取締役専務)
畠山 明(個別教室・家庭教師のアップル代表、株式会社セレクティー 代表取締役)
朗読
阿部 美里、白澤 奈緒子(KHB東日本アナウンサー)
(敬称略)
はじめに
せんだい男女共同参画財団の木須理事長より、震災からこれまで、たくさんの企業がそれぞれの専門性や組織力を持ち寄り、社会的使命として復興支援に取り組んできたことに対する謝辞が述べられました。また、その中で企業の女性たちが行った支援活動の影響力に触れ、「復興を進める上で地元の経済の回復・成長は不可欠。本当の意味での女性活躍を進めていくことが、世界の防災への貢献につながることを確信できる時間にしたい」と挨拶しました。
第1部 講話「なぜ女性が活躍する組織は強いのか」
講師は、『日経ウーマン』の創刊メンバーで編集長や発行人を務めてきた麓幸子さん。麓さんは、自らも二人の子どもを育てながらキャリアを積み、働く女性を取り巻く環境を記者として30年近く見続けてきました。現在は、「女性の就業継続と昇進」をテーマとする研究者でもあります。働く女性、記者、研究者という3つの立場から、「女性の活躍」をめぐる現状や企業にもたらすメリット、女性の力を活かすための具体策を示しました。
- 「女性の活躍」をめぐる現状
- 今後少子高齢化による深刻な労働力不足が見込まれる中、男女を問わず優秀な人材の確保が企業の生き残りのための生命線となっている。
- 政府は2020年までに指導的地位に占める女性の割合を30%にするという「2030運動」を展開しているが、女性管理職の割合は10%未満と先進諸国に比べて際立って少なく、目標には程遠い。
- 女性の人材供給量に着目すると、入社時は女性比率が半数程度であるが、結婚・出産による就業継続の壁や、昇進の壁により、ポジションが高くなるにつれてどんどん先細りになっていく。
- 「女性の活躍」が企業にもたらすメリット
- 性別に関わらず、ポストに一番ふさわしい実力のある人物を配置できるため、経営資源を有効活用できる。
- 適切に仕事の実績を評価する仕組みを持つため、組織全体のモチベーションが上がる。また、優秀な人材を確保できる。
- 新しいことに取り組む機動力や多様性をイノベーションにつなげることができる。前例主義を超えて、本質を見据えた新しいことにどんどんチャレンジできるため、復興支援においても迅速に対応できた。
- 企業の投資価値を測る新しい評価項目である「ESG投資」が注目を集め、E(環境)、S(社会)、G(ガバナンス)に適切な配慮や対応をすることが企業の重要な役割となっている今、「女性の活躍推進」が資本市場での評価にリンクするようになってきている。
⇒女性が活躍できる企業には「ヒト・モノ・カネ」が集まりやすい。企業の持続的成長に女性活躍が深く関わっている。
- 女性活躍推進をはじめとするダイバーシティをトップが「経営戦略」と明言する。
- 男性上司の意識改革が必要。「結婚・出産が女性の幸せ」、「育成してもどうせ辞めてしまう」という固定観念から脱し、20代・30代の初期キャリアから女性にも男性と同様にタフでやりがいのある仕事をさせる。女性は組織に貢献したいと思っている。
- 子育て中の女性を対象にした両立支援策だけでは不十分。生産性をあげるための「ワーク・ライフ・バランス支援策」
- と「女性活躍支援策」を両輪として同時に取り組む必要がある。
- 女性たちが何に困っているのか、女性たちの本当の声を吸い上げるためのボトムアップの仕組みを持つ。
第2部 パネルディスカッション「東日本大震災からの復興における企業の取り組み」
被災地企業の事例として、松田さん、嘉藤さん、畠山さんから、それぞれの取り組みが報告されました。
冒頭に、東日本大震災発生直後である2011年3月、木須理事長(当時宮城野区長)と松田さん(当時資生堂販売株式会社東北支社美容統括部長)との間で実際にやりとりされたメールが朗読で紹介されました。「救援物資として入ってこなかったリップクリーム、化粧水、ハンドクリームなど、女性たちにとっての日用品を避難所に届けてほしい」と支援を求めた木須理事長からのメールに、松田さんは共感し、すぐに行動を起こしました。
松田:市の職員、企業の社員という立場を超えて、女性だからこそ気づけたこと。これは絶対に私たちがやらなければならないことだと会社の仲間やメンターに伝え、助けを求めた。化粧品倉庫が被災し物流が機能していない中、化粧品のサンプルをできる限り取り寄せ、避難所を訪問。「こんなときに化粧なんて贅沢だ」と言われたこともあったが、プライバシーのない避難所で、女性たちが顔を洗い、鏡に向かって眉を描く、口紅を引く等、当たり前に身だしなみを整えることが、日常を取り戻すことや心の復興につながる。震災を機に、化粧が女性の心や人生に寄り添う大切なものであるという原点や、会社のミッションに立ち返ることができた。
この経験を活かし、広島に異動してからも、土砂災害発生時に迅速に支援活動を行うことができた。そもそも誰のために企業があり、誰に喜んでもらいたいのか。女性は役職を超えて使命感で仲間とつながり、行動を起こすことができる。
続いての報告者である嘉藤さんは、専業主婦を経てパート従業員として株式会社鐘崎に入社。その後正社員に登用され、震災から2週間前に、取締役営業本部長に任命されました。
嘉藤:鐘崎は仙台のソウルフードである笹かまぼこを製造・販売する会社。若林区にある本社工場は津波の被災は免れたが、建物や製造機械が破損。従業員の安否確認に1週間を要し、その後、工場の復旧工事に着手。3月28日にようやく一本の製造ラインを動かし、最初の1枚を焼き上げることができたときには、見守る従業員から拍手が沸き起こった。
まず、地域の人に食べてもらって、そこから前に進もうと決めていたため、そのときに作った商品の8割は、若林区内の避難所に配り、残りの2割を市内中心部の店舗で販売。このとき、商品が地域の人にとって大切なものであること、自分たちが前に進むことで地域の復興に貢献できるのではないかという思いを強くした。
現在、私は代表取締役として、二つの果たすべき役割があると考えている。一つは、企業を存続させること、もう一つは、地域の一員として仙台を活性化させること。もともとはパート社員であった自分、女性である自分を「思いのままにやってみればいい」と役員に登用し、背中を押してくれた社長や会社のおかげで、震災時にも揺らぐことなく前に進めた。日々が決断の連続で不安や迷いがなかったわけではないが、やりながら覚悟が固まってきたと感じている。
最後の報告者である畠山さんは、子どもたち一人ひとりに寄り添った学習支援を行いたいと、教員を辞めて個別教室を起業。震災前からダイバーシティ経営に力を入れてきました。
畠山:遠方の震災遺児を対象にしたスカイプによる無料学習支援事業は、女性スタッフの発案で始まった。ボランティアだけでは継続していけないため、全国の一般の顧客向けにも有料のスカイプ事業を展開し、その収益を無料の学習支援の経費に充てている。CSRとしてではなく、企業を持続的に成長させるための経営戦略として女性の活躍推進を重視。信頼して女性に仕事を委ねるボトムアップ型の経営を心がけ、経営者としての自分にではなく、組織のミッションについてきてほしいと日々伝えている。
3人の報告を受けて、コメンテーターの麓さんは、女性が決定権のあるポジションにいたことで可能になった支援活動であることや、経営者が女性の力を見極め仕事を任せることの重要性を指摘しました。
フロアからは、札幌から参加した大学2年生の女性が、「これまでは土日が休みの仕事、自分が好きな仕事を選ぼうと考え、女性が活躍できる企業を選ぼうという視点はなかった。今日の話を聞いて、女性が活躍できる企業が増え、それを女性が望んでもいいものだということがわかった。就職活動では、女性の管理職がどれくらいるか、女性の活躍に力を入れているかに注目し、やりがいのある仕事を見つけたい。」と話しました。
最後に、コーディネーターの長谷部さんが「女性が元気になること、声を出していくことで、東北は変わる。男性上司の方々には、組織のミッションを語ること、女性のやる気を引き出すこと、自らが女性のロールモデルになってもらうことを期待したい」と締めくくりました。
この日の参加者は、企業で働く女性、経営者や人事労務担当者など163名。女性の活躍が企業や地域にとって大きな力となることを共有し、それぞれができることを考える場となりました。
参加者の感想
- 自分の役割、会社での役割、地域貢献を改めて考える機会となりました。
- 女性が少ない職場で働く日常で、「女性だから〇〇できない」と言われないように、守りの姿勢で仕事をしがちでした。今日のお話を聞いて、「女性だから〇〇できる」と言われるように、女性であることに誇りを持って仕事をしていきたいと思いました。
- 女性・男性に関わらず一人ひとりの社員の生活目線やふつうの感覚、顧客のニーズを大事にしていること等、具体例を挙げてお話しくださり、感銘を受けました。日本の企業が皆そうであってほしいと強く思います。女性は自分を活かして活躍できる場を誰でも求めていると思います。
- 管理職になること、リーダーになることから逃げないようにしなければと思いました。女性の活躍には上司がキーポイントである点、非常に共感しました。
- 2030を実現し、女性が仕事をし続けていくためには、職場・家庭という公私の場での男性の理解が鍵だと思っています。
- 会社の運営や個人的なことを含めて、社員や女性たちの話をもっと聞いていこうと思った。
- やはり女性の力はすごい!と思いました。仙台に住む一人の女性として、自分にできることを見つけてやっていきたいと強く感じました。
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